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パワー半導体とは?EVや再エネを支える『縁の下の力持ち』を解説

2026-08-13実践

#半導体#パワー半導体#SiC#GaN#EV

「半導体」と聞くと、スマホやPCの頭脳であるCPUやAI向けの高性能チップを思い浮かべる人が多いかもしれません。でも実は、私たちの身の回りでもっと"地味に、でも大量に"働いている半導体があります。それが「パワー半導体」です。EV(電気自動車)のモーターを回し、太陽光パネルの電気を家庭で使える形に変え、データセンターのサーバーに安定した電力を届ける——そんな「電気そのものを制御する」役割を担っているのがパワー半導体です。今回は、この縁の下の力持ちの仕組みと、日本企業がなぜこの分野で存在感を持っているのかを見ていきましょう。

この記事で分かること

  • パワー半導体は情報を処理するのではなく電気の流れをスイッチング・変換する半導体
  • 材料はSi(シリコン)が主流だが、SiC・GaNという次世代材料がEVや急速充電器で急拡大中
  • ローム・東芝・三菱電機は2026年に事業統合へ向けた協議を開始するなど日本勢の再編が進行中

対象読者:EVや再エネ、データセンターとパワー半導体の関係を理解したいエンジニア・技術者向け

執筆:ゆるふわ半導体編集部 最終更新日:2026年8月13日

パワー半導体とは何か

パワー半導体は、電気の「電圧」「電流」「周波数」をコントロールするための半導体素子です。代表的なものに、電流のON/OFFを高速に切り替える「MOSFET」や「IGBT」、交流と直流を変換する「ダイオード」があります。

CPUやAIアクセラレータが「0と1の信号を演算処理する」ことに使われるのに対し、パワー半導体は「電気そのものを効率よく通したり止めたりする」ために使われます。たとえばEVでは、バッテリーの直流電力をモーターを回すための交流電力に変換する「インバーター」の中核部品として、パワー半導体が数十個〜数百個単位で搭載されています。

💡

スイッチングという考え方

パワー半導体の心臓部は「スイッチング」です。1秒間に数千〜数百万回オン・オフを繰り返すことで、電圧や周波数を細かく制御し、モーターの回転数やパネルからの電力を目的に合わせて変換しています。

ロジック半導体・AIチップとの違い

同じ「半導体」でも、パワー半導体とAI・ロジック半導体では設計思想がまったく異なります。

🔌

パワー半導体

  • 役割:電圧・電流・電力の制御と変換
  • 扱う電圧:数十V〜数千V級と高い
  • 微細化より高耐圧・低損失・放熱性能が重要
  • 回路規模は比較的小さい(数個〜数百個のトランジスタ)
VS
🧠

ロジック・AIチップ

  • 役割:情報の演算・記憶・伝送
  • 扱う電圧:1V前後と低い
  • 最先端の微細化(2nm世代など)で性能競争
  • 回路規模は数百億個のトランジスタ規模

AI半導体が「いかに多くの計算を速くこなすか」を競うのに対し、パワー半導体は「いかに電力損失(熱として逃げてしまうエネルギー)を減らすか」がカギになります。ミリ秒単位ではなく、EVなら10年以上、産業機器なら数十年という長期の信頼性も強く求められる点も特徴です。

材料で変わる性能——Si・SiC・GaN

パワー半導体は使う材料によって得意分野が変わります。長らく主流だったのはシリコン(Si)ですが、近年は「ワイドバンドギャップ半導体」と呼ばれるSiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)が急速に普及しています。

材料特徴主な用途
Si(シリコン)低コスト・製造技術が成熟、大量生産に強い家電、産業機器、汎用電源
SiC(炭化ケイ素)高耐圧・高温動作・低損失で大電力向きEVトラクションインバーター、鉄道、産業用
GaN(窒化ガリウム)高速スイッチングが得意、小型・軽量化に強い急速充電器、データセンター電源、5G基地局

SiC(シリコンカーバイド)シリコンカーバイド

シリコンより絶縁破壊電圧が高く、高温でも安定して動作できる化合物半導体。EVの駆動用インバーターに採用すると電力損失を減らせるため、航続距離の向上に直結します。テスラが2018年にModel 3でSiC MOSFETを本格採用したことをきっかけに、自動車業界での採用が一気に広がりました。

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SiC・GaNは万能ではない

SiC・GaNはウエハーの製造コストがSiより高く、量産の歩留まりも発展途上です。そのため現在は「高耐圧・大電力が必要な場所にはSiC」「高周波・小型化が必要な場所にはGaN」「コスト重視の汎用用途は引き続きSi」という住み分けが進んでいます。

どこで使われているのか

パワー半導体は目立たないながら、社会インフラのあらゆる場所で使われています。

📈

約370億ドル

世界のパワー半導体市場規模(2030年予測)

🚗

数百個

EV1台に搭載されるパワー半導体の点数の目安

🏭

世界2位級

ローム・東芝・三菱電機統合後に目指す規模感

EVのモーター駆動やバッテリー充電はもちろん、太陽光・風力発電のパワーコンディショナー(電力変換装置)、データセンターのサーバー電源、鉄道車両のモーター制御、家庭用エアコンのインバーターまで、電気を使うあらゆる機器の内部で電力変換の役目を担っています。特にAIブームによるデータセンターの電力需要急増は、効率よく電力を変換できるパワー半導体の需要をさらに押し上げています。

日本の半導体産業がパワー半導体に強い理由

最先端ロジック半導体の量産では台湾のTSMCなどに大きく水をあけられた日本ですが、パワー半導体の分野では今も存在感を保っています。ローム、富士電機、三菱電機、東芝はいずれも世界シェア上位の常連です。

日本勢の強みの背景

🏗️

素材・装置の蓄積

シリコンウエハーや化合物半導体の結晶成長など、川上の材料・製造技術に強みを持つ企業が国内に集積している

🚄

産業機器での実績

鉄道車両や産業用モーター、家電向けに数十年単位でパワー半導体を供給してきた実績と信頼性がある

🔬

SiCへの早期投資

ロームは2000年代からSiCに継続投資し、SiCウエハーから完成品まで一貫生産できる体制を築いてきた

🤝

業界再編による規模拡大

2026年、ローム・東芝・三菱電機がパワー半導体事業の統合協議を開始し、世界2位級の規模を目指す動きが進行中

⚠️

再編はまだ協議段階

2026年3月、ロームの半導体事業・東芝デバイス&ストレージ・三菱電機のパワーデバイス事業を切り出して合弁会社を設立する方向で基本合意したと発表されましたが、ローム社長は同年後半の取材で「想定より時間が必要」とも述べており、統合の最終的な形はまだ流動的です。

まとめ

  • パワー半導体は情報処理ではなく、電圧・電流など「電気そのもの」を制御・変換する半導体
  • AIチップは微細化競争、パワー半導体は高耐圧・低損失・長期信頼性が競争軸
  • 材料はSi(汎用)、SiC(EVなど大電力向け)、GaN(高周波・小型化向け)で使い分けられる
  • EV、再エネ、データセンターなど電力需要が伸びる分野すべてでパワー半導体の重要性が増している
  • ローム・富士電機・三菱電機・東芝など日本勢は世界シェア上位を維持しており、2026年には業界再編も進行中

もう少し詳しく(背景)

パワー半導体の性能を語るうえで欠かせないのが「損失」という考え方です。半導体でスイッチングを行う際には、導通時の抵抗による損失(導通損失)と、オン・オフを切り替える瞬間に生じる損失(スイッチング損失)が必ず発生し、これは最終的に熱として捨てられます1。SiCやGaNはこの損失を減らせるため、同じ電力を変換するのにより小型・軽量な部品や放熱機構で済み、EVであれば航続距離、データセンターであれば冷却コストの削減に直結します。

一方で、日本の半導体産業全体を見ると、最先端ロジックの量産では海外勢に押されている構図がありますが、パワー半導体・アナログ半導体は歴史的に「摺り合わせ型」のものづくりと相性が良く、素材メーカーから完成品メーカーまでの垂直的な連携が競争力の源泉になってきました2。2026年に表面化したローム・東芝・三菱電機の統合協議も、単独では世界的な投資競争に対抗しにくくなったという危機感から、規模の経済を確保する狙いがあると報じられています。

パワー半導体についてさらに理解を深めたい方は、トランジスタの基礎半導体とは何かから読み進めると全体像がつかみやすくなります。また、日本の半導体産業の全体像は日本の半導体産業、AI向けチップとの対比はAIチップ需要の高まりもあわせてご覧ください。

参考資料・出典

ゆるふわポータルでは、一次情報・公的資料にもとづき、専門用語をできるだけやさしく翻訳することを心がけています。内容に誤りや古い情報がある場合は、お問い合わせからご連絡ください。

執筆:ゆるふわ半導体編集部 最終更新日:2026年8月13日

Footnotes

  1. 導通損失はオン状態での電気抵抗に起因し、スイッチング損失はオン/オフの切り替え時に電圧と電流が同時に存在する時間に発生する。周波数が高くなるほどスイッチング損失の影響は大きくなる。

  2. 摺り合わせ型ものづくりとは、部品間の相互調整・すり合わせを重視する開発スタイルを指し、材料特性と回路設計・実装技術を一体で最適化する必要があるパワー半導体・アナログ半導体で強みを発揮しやすいとされる。

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