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ガラス基板(Glass Substrate)とは — AIチップの『土台』を変える次世代パッケージング技術

2026-10-02 ・ 実践

#ガラス基板#先端パッケージング#TGV#AI半導体#半導体材料

AIアクセラレータは、演算チップとHBM(広帯域メモリ)を何個も1つのパッケージに詰め込む「多チップ化」が進み、パッケージ全体のサイズがどんどん大きくなっています。ところが、この巨大なパッケージを支えてきた土台である有機(ABF)基板は、サイズが大きくなるほど反り(ウォーページ)が悪化するという物理的な壁にぶつかりつつあります。この壁を突破する切り札として、2025〜2026年にかけて急速に存在感を増しているのが、ガラス板そのものを配線の土台にする**ガラス基板(Glass Substrate)**です。Absolics(SKCの米国子会社)・Samsung・Intelが相次いで量産・実用化に向けて動いており、パッケージング業界で最も注目されるテーマのひとつになっています。この記事では、ガラス基板が解決する課題、鍵となるTGV(貫通ガラスビア)技術、そして各社の商用化レースの最新状況をゆるっと整理します。

この記事で分かること

  • AIチップの多チップ・大型パッケージ化で、従来の有機(ABF)基板は一定サイズを超えると反りが急増し、実装の限界に近づいている
  • ガラス基板はシリコンに近い熱膨張係数(CTE)を持ち反りが少なく、配線をより細く高密度に引けるため、大型・多チップのAIパッケージに向いている
  • SKC子会社Absolics(米ジョージア州)・Samsung Electro-Mechanics・Intelが2026年にかけてパイロット生産や量産準備の段階に入っている
  • 貫通ガラスビア(TGV)という新しい配線形成技術が実用化の鍵を握り、市場規模は2025年の約10億ドルから2036年に440億ドル規模へ拡大すると予測されている

対象読者:先端パッケージング・AI半導体の技術動向を追うエンジニアの方

執筆:ゆるふわ半導体編集部 最終更新日:2026年10月2日

有機基板(ABF基板)が直面する限界

有機基板(ABFビルドアップ基板)(ゆうききばん)

半導体チップをマザーボードやソケットに接続するための配線層を持つ土台(パッケージ基板)の主流方式です。ABF(味の素ビルドアップフィルム)という絶縁材料を使い、銅配線を積み重ねて作ります。加工のしやすさとコストの低さから長年ハイエンドパッケージの標準でしたが、材料そのものがシリコンより熱で伸び縮みしやすく、基板サイズが大きくなるほど反り(ウォーページ)が目立つようになります。

AI向けGPUやアクセラレータは、演算チップとHBMスタックを複数個、1つの大きなパッケージにまとめる構成が主流になっています。パッケージが大きくなるほど基板に求められるサイズも大きくなりますが、有機基板はおよそ55mmを超えたあたりから反りが急激に悪化し、実装時の位置ずれやはんだ接続の不良につながりやすくなるとされています1。これは、有機材料の熱膨張係数(CTE)がシリコンチップと大きく異なるため、温度変化のたびに基板とチップが異なる速度で伸び縮みしてしまうことが原因です。チップレットと先端パッケージで扱ったように、AI半導体は「1パッケージに詰め込む」方向で進化しており、この土台側の限界が性能向上のボトルネックになりつつあります。

📈

10億ドル→440億ドル

ガラス基板の世界市場規模(2025年→2036年予測)

📏

20μm未満

ガラス基板が100mmパッケージで達成する反りの目安

⚠️

55mm超

有機基板で反りが急激に悪化し始める目安サイズ

🗓️

2026年

Absolics・Samsungがパイロット/量産準備に入る年

有機基板 vs ガラス基板、何が違うのか

🧱

有機基板(ABF)

  • 熱膨張係数がシリコンと異なり、サイズが大きいほど反りが急増する
  • 55mmを超えるあたりから寸法安定性が課題になりやすい
  • 量産実績が豊富で、既存のサプライチェーンが成熟している
  • 配線の微細化・大判パネル化には構造的な限界が見えつつある
VS
🪟

ガラス基板(Glass Substrate)

  • 熱膨張係数をシリコンに近づけやすく、反りが少ない(100mmで20μm未満)
  • 誘電損失が小さく、配線をより細く高密度に引ける
  • 大判パネルでの加工に向き、60〜80mm級の多チップパッケージに適する
  • TGVなど量産技術が発展途上で、本格量産はこれから

有機基板は数十年の量産実績があり、コストと歩留まりの面で依然優位です。一方でガラス基板は、ガラスという材料そのものが持つ高い寸法安定性と低い誘電損失を武器に、AI向けの大型・多チップパッケージという「有機基板が苦手とする領域」で差別化を狙っています1。業界では、両者がすぐに置き換わるのではなく、当面はAI・HPC向けの最先端パッケージからガラス基板が採用され、徐々に裾野を広げていくという見方が一般的です。

鍵を握るTGV(貫通ガラスビア)技術

TGV(Through Glass Via、貫通ガラスビア)(てぃーじーぶい)

ガラス基板の表と裏を電気的につなぐため、ガラスを垂直に貫通させて開ける微細な穴(ビア)のことです。レーザーでガラス内部に改質層を作ってから薬液でエッチングする「LIDE(レーザー誘起深掘りエッチング)」などの方式が使われます。直径6マイクロメートル級、アスペクト比(深さ÷直径)15倍を超える極めて細く深い穴を、割れやクラックを出さずに大量加工できるかが量産化の最大のハードルです1。

ガラスはシリコンと違い、もともと「電気を通すための穴」が存在しない絶縁体です。そのため、有機基板のドリル加工やレーザー加工とは異なる専用の穴あけ技術(TGV)が必要になり、これがガラス基板の実用化を長年阻んできた最大のボトルネックでした。TGVの歩留まりと加工速度が実用レベルに達したことが、2025〜2026年にかけて各社が一斉に量産準備へと動き出した直接のきっかけになっています。

商用化レース:Absolics・Samsung・Intelの動き

ガラス基板 商用化ロードマップ

🏭

2024年

Absolics(SKC)が米ジョージア州コビントンに量産拠点を設立。CHIPS法支援を獲得

→
🔬

2026年

Absolicsが商用化目標を掲げ主要顧客の認定プログラムを開始。Samsung Electro-Mechanicsもパイロットライン稼働

→
📦

2027年

Samsungが量産開始を目指す。業界全体がパイロットから量産へ移行

→
🧩

2030年

Intelがガラス基板+EMIBを商用製品に採用する目標時期

商用化で最も先行しているとされるのが、SKCの米国子会社Absolicsです。ジョージア州コビントンの拠点はCHIPS法に基づく米政府支援(最大7500万ドル規模)を受けており、2026年の商用化を目標にAMDなど主要顧客向けの認定(クオリフィケーション)プログラムを進めています2。Samsung Electro-Mechanicsも韓国・世宗(セジョン)でパイロットラインの稼働を当初計画より前倒しし、2026年中の試作、2027年ごろの量産を目指しています。Samsung Electronics本体も、ハイエンドSiP(システム・イン・パッケージ)向けガラス基板の生産を2026年に開始する計画です3。

💡

Intelは『作る』から『技術を貸す』へ

ガラス基板をおよそ10年にわたり自社開発してきたIntelは、2026年1月のNepcon Japanで「ガラス基板+EMIB」を組み合わせた次世代パッケージング技術を展示しました。自社製品での商用採用は2030年ごろを見込む一方、自社で製造まで抱え込む方針から、技術を他社にライセンス供与する方向へと戦略を転換しつつあると報じられています4。先行投資で築いた技術的な優位性を、製造能力を自前で持つリスクを避けながら収益化しようとする動きとみられます。

⚠️

ガラスならではの難所:割れと供給網

ガラスは有機基板より硬く寸法安定性に優れる反面、衝撃や応力への耐性では脆く、割れやクラックのリスクが量産上の課題になります。また、TGV加工やハンドリングに使う専用装置・材料のサプライチェーンはまだ有機基板ほど成熟していません。こうした理由から、業界関係者の多くは本格的な量産立ち上がりを2027〜2030年ごろと見ており、2026年はあくまで「パイロット・認定段階」の年と位置づけられています1。

まとめ

  • AIチップの多チップ・大型パッケージ化で、有機(ABF)基板は55mm超あたりから反りが急増し、実装の限界に近づいている
  • ガラス基板はシリコンに近い熱膨張係数と低い誘電損失を武器に、反りが少なく高密度配線が可能な次世代の土台として注目されている
  • 実用化の鍵は、ガラスに微細な穴を開けるTGV(貫通ガラスビア)技術。直径6μm級・アスペクト比15倍超の加工が量産化の焦点
  • Absolics(SKC)が最も商用化に近く、Samsung Electro-Mechanics/Samsung Electronicsも2026年にパイロット・量産準備段階へ
  • Intelはガラス基板+EMIBを自社開発してきたが、商用採用は2030年ごろを見込みつつ、技術ライセンス供与へ戦略転換の動きもある
  • 市場規模は2025年の約10億ドルから2036年に440億ドル規模へ拡大すると予測される一方、割れやすさ・供給網の未成熟さが量産上の課題として残る

もう少し詳しく(背景)

ガラス基板が注目される根本的な理由は、AI半導体が「1つのパッケージに、より多くの機能を、より高密度に詰め込む」方向で進化し続けていることにあります。チップレットと先端パッケージで扱ったように、演算チップとHBMを複数個組み合わせる構成が主流になるほど、パッケージ全体のサイズは大きくならざるを得ません。AI半導体とHBMで解説したメモリ帯域の確保という課題と同様に、ガラス基板の議論もまた「演算チップ単体の性能」ではなく「パッケージ全体としてどれだけのデータを、どれだけ安定して供給できるか」という、半導体競争の重心がパッケージングへ移っていることを象徴する動きのひとつです。

もう一つの論点は、新しい基板材料・加工技術の導入が歩留まりに与える影響です。歩留まりとコストの経済学で触れたとおり、新しい工程ステップが増えるほど歩留まり低下のリスクは高まります。ガラス基板の場合も、TGV加工時の割れやクラック、ハンドリング中の破損といった従来の有機基板にはなかったリスクが量産の障壁になっており、各社が2026年をあくまで「パイロット・認定段階」と位置づけているのはこのためです。半導体の微細化競争がバックサイド電源供給(BSPD)のようなトランジスタ・配線レベルの技術革新で続く一方、ガラス基板はパッケージという一段上のレイヤーで、同じ「土台を作り替える」競争が起きていると捉えると分かりやすいでしょう。TGVの歩留まりが安定し、サプライチェーンが成熟するにつれて、2027年以降はAI・HPC向け最先端パッケージを皮切りに、徐々に採用が広がっていくとみられます。

参考資料・出典

ゆるふわポータルでは、一次情報・公的資料にもとづき、専門用語をできるだけやさしく翻訳することを心がけています。内容に誤りや古い情報がある場合は、お問い合わせからご連絡ください。

執筆:ゆるふわ半導体編集部 最終更新日:2026年10月2日

Footnotes

  1. TrendForce・Technology Review・atlaspcb等の業界分析(2025〜2026年)。有機基板が55mm超で反りが急増する傾向、ガラス基板が100mmパッケージで20μm未満の反りを達成するとされる点、TGV加工(直径6μm級・アスペクト比15倍超、LIDE方式等)の技術詳細、量産化における割れ・供給網の課題について。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4

  2. Absolics(SKC子会社)に関する報道(businesswire、xenospectrum等、2024〜2026年)。米ジョージア州コビントンの量産拠点設立とCHIPS法支援(最大7500万ドル規模)、2026年の商用化目標、AMDなど主要顧客向け認定プログラムの開始について。 ↩

  3. Samsung Electro-Mechanics/Samsung Electronicsに関する報道(Tom's Hardware、fnnews等、2025〜2026年)。韓国・世宗でのパイロットライン前倒し稼働、2026年中の試作と2027年ごろの量産目標、ハイエンドSiP向けガラス基板の2026年生産開始計画について。 ↩

  4. Technology Review「Future AI chips could be built on glass」(2026年3月)、techovedas等の報道。Intelが約10年にわたりガラス基板を自社開発してきた経緯、2026年1月Nepcon Japanでの「ガラス基板+EMIB」展示、商用製品での採用目標時期(2030年ごろ)、自社製造から技術ライセンス供与へ戦略転換しつつあるとされる動きについて。 ↩

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