
Rapidusと日本の2nm量産計画 — 日本半導体、再挑戦の中身
2026-08-28 ・ ビジネス
かつて世界の半導体生産をリードしていた日本は、1990年代以降その存在感を大きく落としてきました。そんな中、2022年に設立された新会社Rapidus(ラピダス)は、最先端の2ナノメートル世代のロジック半導体を日本国内で量産するという、かなり野心的な目標を掲げています。北海道・千歳の建設地にはすでに巨大な建屋が立ち上がり、政府と民間企業からの資金投入も加速していますが、その裏では資金不足や技術リスクを指摘する声も根強くあります。この記事では、Rapidusのミッションから現状、そして懐疑論までをゆるっと整理します。
この記事で分かること
- Rapidusは2022年設立の国策色の強いファウンドリで、2nm世代ロジック半導体の2027年量産開始を目標に掲げている
- 日本は段階的なキャッチアップではなく、最先端の2nmに一気に挑む「リープフロッグ」戦略を選んでいる
- IBMが技術パートナーとして2nm級の製造ノウハウを提供する一方、資金・技術・顧客獲得の面でリスクや懐疑論も指摘されている
対象読者:日本の半導体戦略やビジネス動向に関心のある社会人・学生の方
執筆:ゆるふわ半導体編集部 最終更新日:2026年8月28日
Rapidusとは何か、何を目指しているのか
Rapidus(らぴだす)
2022年に設立された日本の半導体ファウンドリ企業。トヨタ自動車、ソニーグループ、NTT、NECなど国内主要企業8社の出資と、経済産業省による大規模な補助金を受けて発足した。北海道千歳市に工場を建設し、2nm世代のロジック半導体の量産を目指している。
Rapidusのミッションは一言で言えば「日本に、世界最先端のロジック半導体を製造できるファウンドリを取り戻す」ことです。日本にはかつて多くのDRAMメーカーが存在しましたが、その多くは競争に敗れて撤退・縮小し、ロジック半導体の最先端製造能力については長らく空白に近い状態が続いてきました。Rapidusはこの空白を、既存の延長線上ではなく、ゼロから最先端の2nm世代に挑むという形で埋めようとしています。
千歳の工場では、まず2nmの試作ラインを立ち上げ、その後量産へと移行する計画が進められています。2026年に入り、量産に向けた資金調達や体制整備のニュースが相次いでおり、事業は着実に前進しているようにも見えます1。
2022年
Rapidus設立年
2027年
2nm量産開始の目標時期
約2,676億円
2026年に確保した政府・民間からの資金(うち政府1,000億円)
なぜ2nmで再参入を狙うのか
日本の半導体産業がとった戦略で特徴的なのは、10nmや7nmといった中間世代を経ずに、いきなり最先端の2nm世代を目指すという「リープフロッグ(一足飛び)」型の再参入戦略です。段階的にキャッチアップしようとすると、常に世界最先端の背中を追いかけ続けることになり、いつまで経っても追いつけません。それよりも、生成AIや高性能コンピューティング(HPC)向けの需要が急拡大している最先端ロジック半導体という「これから伸びる市場」に照準を絞り、そこに直接飛び込む方が勝算があるという判断です。
背景には経済安全保障上の狙いもあります。台湾や韓国に最先端の製造能力が集中している現状は、地政学リスクが顕在化した際に日本国内の産業(自動車、通信、防衛関連機器など)が深刻な影響を受けかねないという懸念につながっています。国内に最先端の製造拠点を持つことは、こうした供給網リスクを緩和する意味合いも持っています。日本の半導体産業全体の位置づけについては日本の半導体、各社の2nm競争の全体像については2nm競争の記事もあわせてご覧ください。
「リープフロッグ」という賭け
段階を踏まずに最先端へ直接挑む戦略は、成功すれば大きな飛躍になりますが、中間世代での量産経験の蓄積が乏しいまま最先端の歩留まり改善に挑むことになるため、技術的な難易度は非常に高いとされています。
IBMとの技術提携
Rapidusの計画で欠かせないのがIBMとの技術提携です。IBMは長年にわたり自社の研究所(ニューヨーク州アルバニーなど)で先端トランジスタ技術の研究を続けてきた企業で、Rapidusに対して2nm級の製造ノウハウを提供する主要パートナーとなっています2。IBMは千歳の工場に隣接する形でオフィスを新設するなど、現地での技術支援体制も強化しています。
ナノシート技術(なのしーとぎじゅつ)
IBM研究所が開発を主導してきたGAA(ゲートオールアラウンド)型トランジスタの一種。チャネルを複数枚のナノシートとして積層し、その全周をゲートで包み込む構造で、2nm世代以降の主流構造になっている。詳しくはGAAトランジスタとはを参照。
RapidusはIBMからライセンス供与を受けたナノシート技術をベースに、千歳工場での試作・量産化を進めています。ただし、研究所レベルの技術を実際の量産ラインで安定して再現するには、歩留まりの改善や装置の調整など、地道な作業の積み重ねが必要になります。この「研究室から工場へ」の橋渡しこそが、Rapidusにとって最大の技術的挑戦だと言えるでしょう。
Rapidusのこれまでとこれから
2022年
トヨタ・ソニーなど国内8社の出資と政府支援を受けて設立
2023年
北海道千歳市で工場の建設が開始
2025年前後
IBM技術をベースにした2nm試作ラインの立ち上げが進行
2026年
政府・民間から追加資金を確保し量産準備を加速
2027年(目標)
2nmロジック半導体の量産開始を目指す
リスクと懐疑論
Rapidusの計画は野心的である一方、業界内外から複数のリスクや懐疑論が指摘されています。
まず資金面です。半導体の最先端量産には巨額の設備投資が継続的に必要ですが、Rapidusはまだ本格的な量産による収益を生んでいない段階にあります。2026年に入っても資金調達のニュースが相次いでいること自体、裏を返せば継続的な追加資金の確保が事業継続の前提条件になっていることを示しています3。実際、2026年3月には、資金面の制約を理由に米国ニューヨーク州の研究拠点(NY CREATES)における研究開発investment を予定より前倒しで縮小したとの報道もあり、これが中長期的な先端プロセス技術の開発に影響しかねないとの指摘も出ています4。
指摘されている主なリスク
① 継続的な巨額投資の必要性と資金確保の不透明さ、② 中間世代の量産経験が乏しいまま最先端に挑む技術的難易度、③ 量産開始後に十分な受注(顧客)を確保できるかという事業性、④ 過去の国策プロジェクト(旧エルピーダメモリなど)が直面した苦戦の教訓——これらが繰り返し指摘されているポイントです。
顧客獲得の観点では、IBMや半導体スタートアップのTenstorrentなどが有力候補として名前が挙がっていますが、量産開始前の段階でどこまで安定した受注を確保できるかは今後の焦点です。過去に日本の半導体企業(DRAM分野のエルピーダメモリなど)が国の支援を受けながらも競争に敗れた歴史があるだけに、Rapidusの挑戦は「日本の半導体復活を賭けた最後のチャンス」とも「過去の教訓が生かされるかの試金石」とも評されています。
まとめ
- Rapidusは2022年設立の国策色の強いファウンドリで、北海道千歳で2nm世代ロジック半導体の量産を目指している
- 中間世代を経ずに最先端2nmへ直接挑む「リープフロッグ」戦略を採用し、経済安全保障上の狙いも背景にある
- IBMが技術パートナーとしてナノシート型GAA技術のノウハウを提供している
- 2026年には政府・民間から2,676億円規模の資金を確保するなど事業は前進しているが、継続的な資金確保が課題
- 資金制約、技術的難易度、顧客獲得、過去の国策プロジェクトの教訓など、複数のリスク・懐疑論が指摘されている
もう少し詳しく(背景)
Rapidusの資金構造を見ると、政府補助金と民間企業からの出資・融資が組み合わさっている点が特徴的です。2026年に確保された約2,676億円のうち、情報処理推進機構(IPA)を通じた政府拠出が1,000億円、残りはトヨタ・キヤノン・ソニーグループなど32社の民間企業からの拠出とされています1。この資金は主に研究開発フェーズから量産フェーズへの移行を支えるためのものですが、最先端ファウンドリの立ち上げには一般に兆円単位の投資が必要とされることを踏まえると、今後も継続的な資金調達が避けられない見通しです。
一方でIBMとの提携は、単なる技術供与にとどまらず、千歳での現地支援体制の強化という形でも深まっています。IBMはSynopsysと共同で、チップの温度分布を高速かつ高精度に予測する熱モデリング技術の開発も進めており、2nmからさらに先の1.4nm級の高密度・高発熱チップの設計を見据えた研究協力も行われています2。こうした周辺技術の蓄積が、Rapidusの量産立ち上げをどこまで後押しできるかも注目されるポイントです。
半導体エンジニアの雇用・人材育成の観点からRapidusの影響を扱った半導体エンジニアになるには、ファウンドリとファブレスというビジネスモデルの基礎についてはファウンドリとファブレスの記事もあわせてご覧ください。
参考資料・出典
- Rapidus Secures 267.6 Billion Yen in Funding from Japan Government and Private Sector Companies - Rapidus CorporationRapidus公式発表、2026年の資金調達に関するプレスリリース
- Rapidus scales back US 2nm R&D early, raising timeline and funding concerns - DIGITIMES米国研究拠点での投資縮小と、資金・スケジュール面のリスクに関する報道
- Japan's Chip Push in Spotlight: IBM Backs Rapidus as Funding Momentum Builds - TrendForceIBMによる技術支援と2026年の資金調達動向に関する報道
- Rapidus lands $1.7B to chase 2nm chip production by 2027 - The Register2027年の2nm量産目標と資金調達に関する報道
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執筆:ゆるふわ半導体編集部 最終更新日:2026年8月28日
Footnotes
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Rapidusは2026年2月、情報処理推進機構(IPA)を通じた政府拠出100億円と、トヨタ・キヤノン・ソニーグループなど民間企業32社による167.6億円(合計約2,676億円)の資金確保を発表した。 ↩ ↩2
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IBMは2nm級の製造ノウハウを提供する技術パートナーとして、千歳工場に隣接するオフィスの新設や、Synopsysとの熱モデリング技術の共同開発など支援体制を強化している。 ↩ ↩2
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継続的な追加資金確保の必要性、量産経験の乏しさ、顧客獲得の不透明さなどが、Rapidusの2nm量産計画に対する主なリスクとして指摘されている。 ↩
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2026年3月、資金面の制約を理由にRapidusが米国ニューヨーク州の研究拠点(NY CREATES)における研究開発投資を予定より前倒しで縮小したと報じられ、中長期的な先端プロセス技術開発への影響を懸念する指摘も出ている。 ↩