
GAA(ゲートオールアラウンド)トランジスタとは — FinFETの次に来た構造
2026-08-28 ・ 実践
「2nm世代のトランジスタはGAA構造になる」——ニュースでよく見るこのフレーズ、実際にはトランジスタのどこがどう変わったのでしょうか。2011年にIntelが導入したFinFET構造は10年以上にわたって微細化を支えてきましたが、2nm前後の世代でとうとう物理的な壁にぶつかりつつあります。その壁を乗り越えるために登場したのが、チャネルをゲートで四方から包み込む「GAA(Gate-All-Around)」構造です。この記事では、FinFETが抱えていた課題からGAAの仕組み、各社の量産状況までをゆるっと整理します。
この記事で分かること
- FinFETはゲートがチャネルの3方向しか覆えず、微細化するほど電流の漏れ(リーク)を抑えにくくなっていた
- GAA構造はチャネルの全周をゲートで包み込み、電流のON/OFFをより厳密に制御できる
- Samsungが2022年に3nm世代でいち早くGAAを量産開始、IntelはRibbonFET(18A)、TSMCはN2で追随している
対象読者:トランジスタ構造の進化を実践的に理解したいエンジニア・学生の方
執筆:ゆるふわ半導体編集部 最終更新日:2026年8月28日
FinFETがぶつかった壁
FinFET(フィンフェット)
チャネルをヒレ(フィン)のように立体化し、ゲートがその側面と上面の3方向を覆う構造のトランジスタ。2011年にIntelが22nm世代で初めて量産導入し、以降10年以上にわたって主流の構造として使われてきた。
平面(プレーナ)型トランジスタからFinFETへの立体化についてはトランジスタの進化で詳しく解説していますが、要点だけ振り返ると、FinFETはチャネルを板状に立てることでゲートの接触面積を増やし、電流のON/OFF制御を大きく改善した構造でした。
しかし微細化が進むにつれて、FinFETにも限界が見えてきます。チャネルの下面はゲートに覆われていないため、トランジスタが極小になるほど、ゲートで制御しきれない電流のわずかな漏れ(リーク電流)が無視できなくなってきたのです。フィンをさらに薄く高くすることである程度は対応できますが、薄すぎるフィンは製造ばらつきや強度の問題を招き、これも簡単ではありません。加えてフィンの本数を増減させることでしか電流量(駆動力)を細かく調整できないという設計上の制約もあり、回路設計の自由度も下がっていました。
リーク電流が問題になる理由
トランジスタが「OFF」のはずなのにわずかに電流が漏れ続けると、チップ全体では膨大な無駄な消費電力とそれに伴う発熱につながります。微細化するほど1個あたりの漏れはわずかでも、何十億個も集まればチップ全体の消費電力を押し上げる無視できない要因になります。
GAA/ナノシートトランジスタの仕組み
GAA(ゲートオールアラウンド)(げーとおーるあらうんど)
チャネルの全周(上下左右すべて)をゲートで包み込む構造のトランジスタ。FinFETが3方向からの制御だったのに対し、GAAはチャネルを完全に囲むことで電流のON/OFFをより厳密にコントロールできる。
GAAの基本アイデアは単純です。フィンのように立てた板状のチャネルではなく、細い板(ナノシート)や線(ナノワイヤ)を宙に浮かせたような形にし、その周囲をぐるりとゲートで取り囲みます。ゲートがチャネルの全方向に接することで、電流の流れをより緊密に制御でき、リーク電流を抑えやすくなるのです。
さらに、現在主流になっているのは複数枚のナノシートを縦に積み重ねる「ナノシート型GAA」です。1つのトランジスタの中に薄いチャネルを2〜4枚程度重ねて並列に配置することで、駆動力(流せる電流の量)をシート枚数によって細かく調整できるようになりました。これはFinFETのフィン本数による調整よりも柔軟性が高く、回路設計者にとっては性能と消費電力のバランスを取りやすい構造になっています。
FinFET
- ゲートがチャネルの3方向のみを覆う
- フィンの本数で駆動力を調整
- 2011年のIntel 22nm世代から主流に
- 5nm・3nm世代まで各社が採用
GAA(ナノシート)
- ゲートがチャネルの全周を包み込む
- 積層するナノシートの枚数で駆動力を調整
- Samsungが2022年の3nm世代で先行量産
- 2nm世代以降、各社が本格移行中
誰が量産しているのか
GAAへの移行は各社で足並みが揃っているわけではありません。最も早く動いたのはSamsung電子で、独自の呼称「MBCFET」として2022年に3nm世代(SF3系)でGAAの量産を開始しました。ただし立ち上げ初期は歩留まり(良品率)の低さが繰り返し報じられており、先行したことが必ずしも競争優位に直結したわけではないという評価もあります。
Intelは20A世代でGAA構造「RibbonFET」と、電源配線をウエハ裏面に回す「PowerVia」を組み合わせる計画でしたが、20A自体は外部顧客向けにはほぼ展開せず、事実上の社内検証世代として扱われました。本命として位置づけられたのは次の18A世代で、RibbonFETとPowerVia backside powerを本格投入し、自社製CPU(Panther Lakeなど)や外部ファウンドリ顧客向けの量産を進めています。
TSMCは最も保守的なタイミングでGAAに踏み切りました。N3世代まではFinFETを使い続け、2nm相当のN2世代で初めてナノシート型GAAを導入しています。TSMCは長年にわたり圧倒的な顧客基盤と歩留まりの実績を持つため、GAA移行を急がず、成熟度を優先した形です。
2022年
SamsungがGAA(MBCFET)量産を業界に先駆けて開始
18A
IntelがRibbonFET+PowerViaを本格投入する主力世代
N2
TSMCが初めてGAA(ナノシート)を採用する2nm世代
GAA移行のおおまかな流れ
〜2021年
各社ともFinFETで5nm・3nm世代を量産
2022年
SamsungがMBCFET(GAA)を3nm世代で先行量産
2024年
IntelがGAA世代20Aを社内検証として立ち上げ
2025年
Intel 18A、TSMC N2がそれぞれGAAで量産・高volume化
2026年以降
GAAが2nm世代以降の業界標準構造として定着
GAAが解決している問題
GAAは単に「新しい形」というだけでなく、①ゲート全周制御によるリーク電流の抑制、②ナノシート枚数による柔軟な駆動力設計、という2つの実利的な問題を解決しています。これにより、FinFETでは難しくなっていた微細化と省電力化の両立を、もうしばらく先まで延命させることができています。
まとめ
- FinFETはゲートがチャネルの3方向しか覆えず、微細化するほどリーク電流の抑制が難しくなっていた
- GAAはチャネルの全周をゲートで包み込む構造で、電流制御をより厳密にできる
- 現在主流の実装は複数枚のナノシートを積層する「ナノシート型GAA」
- Samsungが2022年に3nm世代で先行量産、IntelはRibbonFET(18A)、TSMCはN2でそれぞれ本格導入している
- GAAはリーク電流の抑制と駆動力設計の柔軟性という2つの課題を同時に解決する技術
もう少し詳しく(背景)
GAAへの移行タイミングが各社で異なるのは、単なる技術力の差だけでなく経営判断の違いも大きく影響しています。Samsungは先行者優位を狙って早期にリスクを取りましたが、立ち上げ初期の歩留まり低迷は顧客離れにもつながったと指摘されています1。一方TSMCは、既に確立されたFinFETの歩留まりと顧客基盤という「強み」をできるだけ長く活用し、GAAへの移行は技術が十分成熟してからという保守的な戦略を取りました2。Intelにとっては、GAA(RibbonFET)とPowerViaという2つの新技術を同時に投入する18Aが、長年苦戦してきたファウンドリ事業の巻き返しを左右する重要な世代と位置づけられています3。
GAAの次の世代として、ナノシートをさらに垂直に積み重ねてトランジスタ自体を上下2段構成にする「CFET(Complementary FET)」という構造も研究が進んでおり、2nmのさらに先の微細化を見据えた技術開発が続いています。
GAAが登場する前段階の技術進化についてはトランジスタの進化、2nm世代を巡る各社の競争状況は2nm競争、プロセスノードという呼び方そのものについてはプロセスノードとは、微細化を支える露光技術はEUVリソグラフィの記事もあわせてご覧ください。
参考資料・出典
- The GAA Transistor Revolution: The Ultimate Weapon in the 2nm Showdown Between Samsung, TSMC, and IntelSamsung・TSMC・IntelのGAA移行戦略の違いを解説した記事
- Clash of the Foundries: Gate All Around + Backside Power at 2nm - SemiAnalysis2nm世代におけるGAAとバックサイド給電の技術比較分析
- GAAFET and Nanosheet Transistors: A Full Guide (2026)GAAFET/ナノシートトランジスタの構造解説
- 2nm Nodes in 2026: TSMC N2, Intel 18A, and Samsung SF2 – Density, Performance, Yields, and Ecosystem2026年時点でのTSMC N2・Intel 18A・Samsung SF2の比較
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執筆:ゆるふわ半導体編集部 最終更新日:2026年8月28日